『ミリ―ちゃん』の捜索を始めてから三日が経つ。
当然ながら、広い街中でたった一匹のネコを探すのはほぼ不可能に近い。
「いい加減機嫌直せよ〜」
「うっせぇ・・・」
俺たちはあれからこんな会話しかしていない。
それというのも、香爆はよっぽどのことが無い限りたいがいヘラヘラしているし、俺はよっぽどのことが無い限り眉間の皺が消える事がないからである。
このアンバランスなコンビがもう四年も続いているなどとは、死後三日間人々の前に現れた神の子もびっくりだ。
・・・しかし、と考えてみれば。
こいつとパートナーになった原因は他でもない俺だったか。
俺が拾ったから香爆は今までこうして俺の隣に居た。おそらくはこれから先もずっと・・・
それはそう、丁度拾われネコのように。
そんなことに思いを馳せていると、先ほど俺にはねっかえされてから捜査(と言っても周りを見まわしているだけだが)を再開していた香爆があっと声を上げた。
「どした」
訊ねなくても視線の先を見ればすぐにわかった。
それを見た途端、俺は思わずやっぱりな、とこぼしてしまった。
『ネコは発情期になれば何処へでも行く』
全体的に黒い毛並み、額の辺りだけ白い。依頼人から聞いていた容貌と同じネコが、俺たちのすぐ前の塀の上を優雅に歩いている。
――隣の茶色いネコと寄り添って。
「・・・そういえばミーちゃんってメス?」
と香爆。『ミーちゃん』の名から普通に考えればそうであるが、
「子供にとって事実なんて大した意味を持たない」
「それって・・・」
「隣を歩いてる方がメスって可能性もおおいにありうるってことさ」
まあどっちでもいいがな、と付け加えて恋人達に踵を返す。
「邪魔しちゃあ悪い。帰ろうぜ」
「あ・・・でもあの子には何て?」
「そのうち帰ってくるって希望を持たせとくか、あきらめてもらうかだな」
それを聞くと香爆が慌てて追いついてくる。
「そ・・・それはちょっと可哀想じゃない?」
「連れて帰ったらミリーちゃんが可哀想だろ?心配すんな、子供ってのは案外に優しいもんだ」
それでも腑に落ちない様子で俺とネコ達とを交互に見ていたが、無視して歩を進める。
――が。
「あーーー!!!」
突然の大声に驚いて振り向きざま裏拳で後頭部を殴打してやった。
「何だよ驚かせるな。こっちは歳なんだ――」
「そ、それより・・・あれ・・」
痛みに頭を抱えながらも、さっき向いていた方向を指差した。
丁度、どう見ても良いとはいえない人相の男が、暴れる二匹の生き物をひっつかんで袋につっこんだところだった。
「・・・あ?」
状況が理解できずにいると、男はサンタのように袋を背負って走っていく。
それを追いかけるつもりらしく、頭の痛みが回復した香爆も駆け出す。
そこで、とりあえず自分も走った方がいいことだけは理解できたのだった。
to be continued... |