小説
FE短編小説 -聖戦の系譜-

海と私の物語(シルヴィア)
ぼーっと考え事をしていたら、いつの間にか海辺にきていた。
風が私の肌を冷たくなめて、そして通り過ぎていく…
海から吹いてくる風はやけにしょっぱくて、私は泣きたくなる。
そう、涙が出そうなのは、海風が辛いから。
「何をしていらっしゃるんですか」
頭の上から声がした。
橙色に染まっている世界の中で、きらきらと光る金髪がチラッと見えた。
「あ、神父様…こんばんわー…ちょっとねー海を見てたのよ」
私は、顔を海に向けたままできるだけ明るい声で答えた。
今、きっと私はとても暗い顔をしていると思うから。
そんな顔を誰にも見られたくなかったから。
「夕日が綺麗ですね」
神父様はそんな私の態度なんて気にならないのか、そうつぶやいて私の隣に座った。
太陽は、今まさに海に飲まれる寸前だった。
「太陽が海と…混ざり合って溶けて…消えちゃう…まるで…」
まるで、今の私みたい…
神父様は、何も言わなかった。私の次の言葉を待っているのかもしれない。
でも、私はしゃべることができない。
今、話したら…声が震えちゃう、絶対。そんな姿を見せたくない。
変なところで強がりな自分が、なんだか悲しくさえ感じてくる。 先に沈黙を破ったのは神父様だった。
「まるで、あなたみたいですね。」
どきっとした。
自分が今、泣きそうな顔をしているのが、バレてしまったかと思った。
一生懸命恋をして、見事玉砕した私。
溶けてなくなっちゃう運命の私…
レヴィンの顔が、私の頭の中でフラッシュバックした。
あんな真剣な顔、初めて見た。私には見せてくれなかった顔…
「シルヴィア」
神父様は、優しく私の名前をつぶやいた。
途端、私は現実に戻され、慌てて返事をしようとした。
けれど、目からどんどん涙があふれてきて声なんて出せない。
必死に耐えても、口からどんどん嗚咽がもれる…
暖かくて大きい手が私の頭のてっぺんにのっかった。
「あなたは太陽のようです。とても生命感にあふれていて神秘的です」
そして、大切なものを扱うように、優しく、壊れないようになでる。
もう我慢ができなかった。
溢れ出した涙はもうとめようがなくて、私はわんわん泣いた。
そして、本当にレヴィンが好きだったことや、辛かったことを吐き出すように話した。 泣くだけ泣いて疲れた私は、真っ赤になった目をこすって、神父様に謝った。
「ごめんなさい…私…その…本当に…ほんとにごめんなさい!」
神父様はにこっと笑って、私に言った。
「謝る必要はありません。あなたの気持ちがそれで楽になるのなら、その方が私も嬉しいですから。それに…あなたが心の内を話してくれた事が私としては嬉しいですし」
「で、でも…私…」
神父様にすごい迷惑を…
そう言い掛けた私に神父様は極上の微笑を浮かべて、手を前に差し出して言った。
「では、「ありがとう」と言って下さい。その言葉の方があなたには似合いますよ。…さぁ、シルヴィア、もう戻りましょう。もう日が落ちてしまいました…」
私は軽くうなづいて神父様の手を取った。
その手はとても暖かくて、私はとても嬉しくなった。
さっきまで、傷ついてちぎれそうだった心がうそみたいに晴れていた。
「…ありがとう、神父様…。神父様がいてくれて…本当によかった…」
突然、神父様の手に力がこもった。
私は驚いて、神父様の顔の方を見上げた。
神父様は、少し困ったような顔をして、私を見つめていた。
「神父様…?」
私が不安になって、そうつぶやくと神父様はちょっと苦笑して言った。
「私はね、シルヴィア…あなたを愛しく思っています。」
心臓が飛び出すかと思った。
それはいったいどういう意味なんだろう?
ぽかんとしている私に神父様はたたみかけるように言った。
「私はいつでもあなたという太陽を受け入れる海になりたいと思っています…その…あなたにご迷惑をおかけしませんので…何かあったら私に相談を…」
神父様はまだせつせつと何か唱えているけれど、私の耳にその言葉は聞こえなかった。
ただ、ドキドキしていた。
「神父様…」
私が突然名前を呼んだら、神父様は硬直した。
そんな神父様を見て、自分の顔が自然にほころんでいるのがわかった。
恋か愛か知らないけど、私は神父様が好きだ、そう思った。
「ね、神父様!私は海が大好きよ。広くて暖かくて…私を優しく包んでくれるものね」
神父様はぽかんとして、私の眼をずっと見つめている。
私は少しもどかしくなって、神父様の手を強く握りしめた。
「…さ、神父様、早く帰ろ?」
神父様はしばらく呆けていたようだけれど、私が駆け出すと慌てて一緒になって駆け出した。
甘くてくすぐったい気持ちが、私の心に中に芽生えた気がした。 あなたが望むのなら、私はいつでも明るく強い太陽でいよう…
だから海よ、私を優しく強く、その腕で包み込んでいて。

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