小説
FE短編小説 -トラキア776-

オルエン
幼い頃から、文武両道の兄は私の憧れであり、私の全てだった。
私は兄の全てを受け入れるであろうし、よもや否定する事などないと思っていた。
私にとって兄は私の主体であり、私自身は兄の付属物でしかなかったのだ。
私は私の全身全霊でもって兄を愛していたのだ。

歯車が壊れたのはいつだろう?
愛している人と道を違えるなど考えたくもなかった。
兄の信念は私にとっては高い障害でしかなく、どうすれば私の信念に兄を付随させる事ができるか、そればかりを考えていた。
愛する兄との別離に、私は最後まで抵抗するつもりだった。
いつのまにか、私は兄を愛するあまり、兄を自分の付属物にしようとしていたのだ。

けれど、兄に託された言葉と剣が私を諭してくれた。
兄は兄の信念の下にその手綱を取り、私は私の信念の元に自分の手綱を取らねばならない、それは決して覆せない現実。
どちらが正しいのかなど、神の天秤でさえも量れない。

愛は奪う事ではなく、お互いの意思を尊重しあう事なのだ。
私は兄を愛しているからこそ、決して兄の付属物であってはいけないのだ。
そして、兄を付属物としてはいけないのだ。
私は自分の信じた道を貫き、生きていく。
それが兄への本当の愛だと気が付いたから…
リノアン
いつでも守るべきものがあって、その存在に私は守られてきた
私を必要とするもの存在が、私に私の存在意義を認識させていた
だから、迷いはしなかったし、それが生きる全てだった
守る存在を得ている自分が、とても幸せだった

それは嬉しくて辛い幸せの始まり…
私を守るべき存在の出現は私を簡単に迷わせた
自分の奥底の何かを熱く引き寄せるその存在が怖かった
自分が守ってきた全てを投げ捨てて、その存在に守られたい自分がいる
求めてはいけない、触れてはいけない、でも離れることなど到底できはしない
この両手に収まりきれないたくさんの幸せを私はどうすればいいの…?

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