■Rose of May 1■
どうして、兄弟なのに色が違うの?その少女は不思議そうに言った。
僕は弟の顔をついまじまじと見てしまった。
黒い髪、耳にしっぽ。僕の色素の薄い髪や耳やしっぽとは明らかに違う。
僕が考えふけっていると、弟が口を開いた。
父さんが黒くて、母さんが白いからだよ。
そうなのか。僕は思った。
僕達は弟が言うように、父さんや母さんを見たことがなかった。
気がつくと僕らは孤児で、二人だけで暮らしてきた。幸い、僕たちには自慢できるだけの俊敏さがあったし、少しの空腹に耐えられるしぶとさもあった。父親や母親の肌を恋しく思ったことはあったけれど、僕達にはお互いがいたから辛く感じることはなかった。
ねぇ、知ってる?兄弟って普通髪の毛の色一緒なのよ。お母さんもお父さんも、お兄ちゃんだってお姉ちゃんだって私と同じ髪の色をしているわ。
だから、あなた達よりも幸せなのよ。…そう、幸せなのよ…。
少女は、綺麗に編んだ亜麻色の髪を撫でながら言った。

寒い夜だった。いつものように僕達は体を寄せ合って眠っていた。
不意に僕達の耳に、悲痛な叫び声と、ごうごうという聞いたこともない恐ろしい音が聞こえてきた。
僕は眠そうに目をこする弟の腕を無理矢理つかまえて、家から飛び出した。
外の世界は、まるで夕日が落ちてきたようにオレンジ色に染まっていた。
僕は弟の手を握りしめ、走り出した。乾いた風にあおられ火はどんどん燃えさかっていく。

やめて!父さん、やめて!!
聞こえてきた少女の叫び声に僕達は足を止めた。振り返ると、炎の中、倒れてしゃくりあげている少女が見えた。
少女の視線の先には、恐ろしい叫び声を上げている少女の父親がいた。
男の足元に、少女の母親が倒れていた。少女と同じ色をした長い亜麻色の髪が、赤黒く濡れていた。
少女は頭を抱えて、なきじゃくりながら何度も叫んでいた。
違う、こんなの嘘よ、違う、違う!…違うって言って、父さん!
父親は必死に叫びつづけている少女の声が聞こえていないのか、まっすぐ、炎に向かって歩いていく。
僕は弟の手を離し、少女に向かって走りつつ言った。
立って!逃げるんだ!早く!さぁ!
僕が少女の腕を抱え上げたときだった。メキメキという恐ろしい音が聞こえた。それは、火の固まりと化した木々だった。
倒れる木々の隙間からこちらに向かって走り出している弟が見えた。
オレンジ色に、弟が包まれていく。僕は恐ろしい恐怖に駆られながら、今まで聞いたこともない叫び声をあげていた。
「くるな!…くるなっ!」
その瞬間に襲ってきた、強烈な衝撃に、僕は意識を手放した。