■Rose of May 2■
あら、目を覚ましたのね…
僕は、ぼーっとしながら、その優しくて甘い声に見たことのない母さんを思い出していた。
「母さん…」
僕の口がそういい終わるか言い終わらないうちに、僕はほっぺをきつくつねられた。
「い、いた…!!」
頭打ってるみたいだから、心配してあげたのに…この私に母さんですって?いつ、どこで私がこんな大きい子供を産んだって言うのよ。
長い髪の女の人はそう言った。きつく目を細めいてるが、僕はそんなに怖く感じなかった。
助けてもらった礼くらいちゃんと言えないの?貴方のせいで、私の羽が少し焦げちゃったわ。どうしてくれるの。
彼女は、側の椅子に座ると、足を組んで笑いながら言った。彼女の背には、白くて大きい羽があった。僕はその見たこともない綺麗な羽につい見とれてしまっていた。
ニルヴァーナ。何をボーっとしているの。やっぱり打ち所が悪かったのかしら?
ニルヴァーナ…?って誰だろう…。
僕が真剣に考えていると、彼女は少し顔をしかめていった。
…貴方、自分でニルヴァーナだって言ってたわよ。忘れたの?
僕はどうすればいいのか、まるでわからなくて、ずっと彼女を見つめていた。「ニルヴァーナ」という名前も、自分がそう言ったというのも、まるで覚えていない。
しばらくすると諦めたように、軽くため息をつくと彼女は言った。
10日前、貴方は火事にまきこまれたのよ。私は偶然通りかかって、綺麗な銀髪が燃えてたからもったいなくて、貴方を助けたの。あの時、貴方自分の事ニルヴァーナだって言ってたわよ。後、何か言ってたわね…忘れちゃったけど。
まるでない記憶に僕は戸惑った。一生懸命そのことを思い出そうとしても、頭がキリキリ痛んで、僕は悲鳴をあげそうになった。
その時、冷たくて暖かい手が僕の頬に触れた。
無理しなくていいわよ、いつか思い出すでしょ。それに…あの村は全滅したのよ。戻ることなんてできないわ。私と一緒にいらっしゃい。風吹く国へ行く途中だったの。いいわね?…貴方の焼けた髪の毛が元の長さに戻る頃には、昔の記憶に未練なんて感じてないわよ。
僕は慌てて髪の毛を触った。短い髪の毛が僕の指の間をすり抜けた。
馬鹿ね、焼け焦げた髪なんてもう切り落としちゃったわよ。もったいなかったわよ。長くて綺麗だったから。
彼女はそう言うと、満面の笑顔を浮かべた。

僕は髪の毛を失ってしまったときに、心まで失ってしまったのかもしれない、ふと思った。
考える暇なんてなかった。彼女は…モリガンはとても強引で、しばらくの療養後、僕の返事を聞かずに僕を連れ出した。
長い、船旅の後についたそこは暖かい風の吹く国だった。

僕の気持ちなんていつもお構いなしのモリガンは、それでも、僕のただ一人の肉親のような気がした。